恋 愛 的 疑 念




 貴女は、この僕に愛していると確かに云った。
 それは間違いない。
 そうして、僕もそうだと答えた。
 貴女が、眸中を揺らめかせて、僕の腕を掴んだとき、僕は貴女の中に流れる熱を見たのだから。
 僕が自惚れていたのだとしても、それを責められる筋合いはない。
 その瞬間に、僕の中には、男らしい何物かが、とある一点から全身に行き渡った。よく云って保護欲、悪く云って征服欲。独占でも束縛でも何でも良い。とにかく、貴女を得ようとする感情の動きがあった。
 ついでに、他人に漏らせば笑われるだろうと思うけれども、その一瞬で、貴女との将来さえ思い描きもした。
 食卓をふたりで囲む様。貴女が赤ん坊を抱き上げて、それを僕が横から覗き込む様。その赤ん坊は、云うまでもなくふたりの間にできる子どもだったのだろう。
 そういった未来の一片が、僕の脳内に飛来したのだ。瞬間的であったから、むしろ斬り込んできたと云っても良い。
 僕は、貴女の眼の中に女らしい弱さを見たのだ。そうしてそれは、男であった僕を過分に満足させたのである。
 それなのに。
 僕が答えたそのときに、続いて過ぎった貴女の眼の光は何だったのか。貴女の唇に刷かれた微笑は何だったのか。
 その微笑は、僕が今までに見たことのあるどんな 微笑よりも、婉然たるものだったように思う。



 貴方は、この私に愛していると確かに云った。
 それは間違いない。
 そうして、私もそうだと答えた。
 貴方が、その右手を私たちの間何十センチかの隙間を裂くように、私に伸ばし、私を巻き込み、私はその全てに、云いようのない力を感じたのだから。
 貴方が、私を求めていると理解したのを、乙女らしいなどと責められるのは願い下げである。
 その瞬間に、私の中には、とても広い空間が生まれた。上下に終わりがなければ、左右にも終わりがなかった。貴方が力を見せれば見せるだけ、私はその果てのない空間の中を安らいで、泳いでいる心持ちがした。
 それは、まさしく永遠と評されるのに、何の不具合もない。
 貴方の力は、私に未来の一片を見せる。 
 どこかの道を、肩を並べて歩いている様。それは若々しい男女のときもあれば、いくらか歳を取ったときもある。きっと何十年か先の未来だろう。 けれども。
 私が悲しいのは、貴方の力だけで、そこまで押し上げられているのに過ぎないということ。
 私は、貴方の力の中に全てを託している。その全てに何とか安定を得ている。
 それを証拠に、貴方の力が少しでも弛めば、私は孤独である。
 貴方は、何を思って私に力を見せつけるのか。私をここに縛り付けておいて、貴方は全く自由なのだ。
 貴方が、私に見せる力は、私が今までに感じたどんな力よりも、強く、それでいて、逆に弱い。




   貴女は。
   貴方は。
   僕の前に。私の前に。
   真実を隠して、立っているのではないか。











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「夢のはじまり」なるさわまやさんに頂きました。
うちがもうすぐ5000hitだから、記念に何かチョーダイ攻撃を、帰りの電車中ずっとくり返していたところ(嫌がらせ以外の何物でもない;)、本当にくれました。
ありがたいことです。
私には到底書けない素晴らしく理知的な恋愛ものです。
文章の端々にまやさんらしさが見え隠れしていると思うのですが・・・^^
本当に素敵な記念をどうもありがとうございました!








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